最初にお断りしますが、この点字自動翻訳システムは、当初からその目的で開発されたものではありません。私がたまたま、点字に接する機会があり、点字の難しさに驚いたことで、こんな複雑なものはパソコンにやらせてしまえ、というのがそもそものきっかけです。
なぜ、そういうことをわざわざ申し上げるかというと、よく、「事業化しないか?」と言われることです。
自分のやったことが評価されることはうれしいのですが、基本的に私は自分の技術や業績は社会への恩返しと考えており、現時点では、このシステムを有料化するつもりはまったくありませんし、将来的にもありません。
ですから、その点は安心して使用してください。
そもそも、視覚にハンディキャップを負っておられる方、またその周囲の方に、それ以上の経済的負担を負わせることをしたくありません。ハンディキャップを負っておられる方を扶助するのは、社会や行政の仕事であって、その当事者が負担すべきものではありません。自分はその隙間をうめるために、行っていることであって、将来、行政等からそのような補助金等が出て、開発者が開発しやすい環境になることを切に祈っています。
自分が作ったもので、結果的にハンディキャップを負っておられる方に経済的負担を負わせるのは、自分の真意ではなく、その点からもあえて無料で開放しています。
ま、自分には義務感とかはなく、好きでやっていることですから、どんどん使っていただいて、世の中が点字だらけになったとき、みんなが幸せになれるでしょう。
さて、このシステムを開発したのが7月の下旬でした。さまざまな資料を読み漁る時間のほうが長くかかりました。それほど点字は複雑なものです。
8月1日にシステムを公開しましたが、8月下旬ごろから反響が次々と寄せられました。
このシステムを作って、本当によかった、というメールばかりです。
いただいたメールの中で、こんなものがありました。
視覚障害の彼氏と付き合っている、という女性からです。
点字を覚えようとも難しくて、覚えられなかったのですが、このシステムを使って、点字のメッセージを送ったら、彼氏にびっくりされたけど喜んでくれた。
という内容でした。
想定された使い方の中で、私自身がもっともうれしい使われ方です。
このシステムが翻訳する点字は必ずしも正解ではありません。しかし、正しい点字を書くことと心のこもったメッセージを伝えることは別問題です。重要度から言うと、後者のほうが絶対に大切です。
点字を自分で打っていくと、ある程度覚えていくことでしょう。
それが大切なことだと思います。
今後は、本格的な点字の勉強ができるような、サイト作りを目指していきますが、ぜひ、みなさんも気軽に点字に親しんでほしいです。
今回、私が取った試みは、調べてみると、他にも色々ありましたし、情報もいただきました。まず、ご紹介します。
岐阜大学池田研究室
製品化予定。日本ライトハウスより紹介があった。
木 喜次 小野 智司 浜田 佳延 水野 一徳 西原 清一
筑波大学大学院工学研究科の学位研究論文。
小野 智司(筑波大学 理工学研究科)
浅川 智恵子(日本アイ・ビー・エム株式会社 東京基礎研究所)研究論文。
学校法人後藤学園 東京衛生学園専門学校・神奈川衛生学園専門学校が運営する、点訳web。
これらを見てみるに、学術的観点からさまざまなアプローチが行われていることがわかります。つまり、理論的な筋道は立っているものの、それらを具体化するのに、ある種の壁があることがわかります。
私の不勉強と無計画性と唐突な思いつきでおっぱじめたものですから、これらの論文を読んでおけば少しは楽だったのかもしれないし、ある種のあきらめ(なんだろう?)がついたの知れません。
とりあえず、かな→点字の対応ができれば、いいや、と思っていたところに、私自身が行っていた研究や業務(職務上明かせませんが、あなた、もしくは身近な人が使用している可能性は高いです)で、言語学の形態素解析の知識があり、「形態素解析システム 茶筌」の存在を知っていたことで、一気に突っ走ることになってしまいました。
また、実際にプログラムを書いて、まぁ、とりあえずは動かないだろう、と思っていると、何の因果か、あっさりと動作してしまいましたので、ひっこみがつかなくなってしまいました。
というわけで、一人で突っ走っているので、何が正しいかよくわかっておりません。
ただし、実際に視覚障害の方に読んでもらって、ある程度の検証をしていただいているので、まぁ、なんとか、なっているだろう、とは思っていますが、もし、まずい点があれば、ご連絡ください。
最近、駅などにも点字の料金表等があったりして、よく見かけるようになりました。でも、割と「おや?」と思うことがあり、調べてみると、間違えていることがありました。
点字はこれまで視覚障害者が取りうる、唯一の静的なコミュニケーション方法でしたが、パソコンの普及により、必ずしも必要というわけでもありません。実際、点字を習得していない視覚障害者も割といらっしゃいます。
しかし、世の中すべてがサイバーなものでもありません。
暗い場所にスイッチがたくさんあります。どのスイッチをつければ、部屋が明るくなりますか?そんな場合、点字テープを貼っておけば、よいでしょう。
視覚障害の方が周囲にいない場合でも、そんな身近なところからところからはじめてみませんか?
点字を覚えることは、晴眼者にとってもきっとプラスになります。
点字が視覚障害の方の特殊なものと、心の奥で差別していませんか?
その差別を取り除けば、白杖を持った人が出会ったとき、恥ずかしがらずに自然に手引きができるようになるでしょう。
「ご案内いたしましょう」と一声かけてみましょうね。
もともと、自然言語処理に興味があり、別件の仕事で形態素解析を使用していたことは幸運でした。もともと、私には視覚障害の同級生がおり、梅田近辺でしばしば手引きしていました。
もともと、muzik.gr.jpというドメインを取得して、自宅にサーバーを開設した際、インターネットならではの活用方法を研究する目的を持っていましたが、あまりそれらしい活動ができなかったのも事実でした。
ただし、毎年「夏休みの宿題」として何らかのプログラムは書いており、今回は題材として点字を選択しました。
今回の点字翻訳の試みは、割とシャレでプログラムを書いた要素が多く、点字の点字たるを知らないまま実装していったため、もっとよい実装方法も考えられます。これは来年の宿題ということで、考えています。
で、この翻訳システムは個人での利用を想定していましたが、アクセスログを見てみると、意外にも企業や大学、教育機関での利用が非常に多く、これは意外でした。
来年はもっと、よいサイト作りができるようにしたいと思います。
2003年もあっという間に半年が過ぎました。なのに、何もしていないのは悲しいことです(自己批判)。
別稿でも触れましたが、「総合的な学習の時間」が小学校、中学校、そして高等学校で導入されています。点字を学校で触れる機会が増えたのはとてもよいことだと思います。
私は点字の専門家ではありませんし、長年、点字を勉強してきたわけでもありません。2002年に点字をはじめた初学者です。にもかかわらず、点字自動翻訳のサイトを立ち上げたのは、まずは、情報処理の専門家という立場で「できることからやってみよう」という無謀な動機からです。しかも、プログラムを書きながら、点字を学習していったという大馬鹿者です。
初学者であることもありますが、そのほかの要因で、点訳の精度に関しては、いまいち自信がありませんでした。
それは、点字という生きた言葉である以上、文法書が全てではなく、実際に流通している点字に接した経験に乏しいことにつきます。
なので、サイトの宣伝はほとんど行わず、福祉関係の検索サイトに掲載したり、知人に伝えただけでした。
ところが、webの力はすごく、あっという間に存在が知られるようになり、アクセス数は急激に増えるようになりました。
それに拍車をかけたのが、先の「総合的な学習の時間」で、授業で使用される、というまったく想定外の状況です。
教育機関は独自の口コミネットワークがあるのでしょうか、あっという間にあっちこっちからアクセスされるようになり、いくつかの学校や教育委員会から「授業に使用させて欲しい」という公式の打診が来るまでになりました。
その書き出しが「厨子先生」で来るものですから、どう反応していいのやら、という感じですが、いつの間にか、コンピュータによる点字翻訳で名が知られるようになり、その重責を感じざるを得なくなってきました。
で、いまさらながらですが、Yahoo!にサイトを登録しました。
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